プログラムディレクターによるプログラム紹介

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日本の競争力強化に向けた革新的ものづくり プログラムディレクター 佐々木直哉

 本プログラムでは、従来から評価の高いわが国ものづくり産業の品質・機能に加えて、高い付加価値をユーザーに提供できるようにするデライトなものづくりに向けた「革新的ものづくり」を確立することを目指しています。Society5.0時代に要求される、社会的課題と経済的課題の両立を目指した、社会の様々なニーズにきめ細やかに対応可能なものづくりの実現に向けて、革新的な設計や生産のツールや技術の開発を行うとともに、ツールや技術を広く産業界に展開し、高付加価値製品を生み出す仕組みづくりに取り組みます。

  
  

佐々木PDインタビュー(Youtubeへリンク)

多様なニーズに対応できる革新的ものづくり

 私はシミュレーション技術について研究してきたため、製品設計も含めてものづくり全体に長年関わってきました。それだけにわが国のものづくり産業の現状を見渡すと、その再生のためには、グローバルで勝てる革新的なものづくりを確立する必要があると痛感してきました。

 そのためには、日本のものづくりの強みである高品質、高機能に加え、ユーザーの「喜び」や「満足感」につながる新たな付加価値を持つデライトな製品を生み出す必要があり、本プログラムでは、その実現において必要となる設計や生産・製造に関わる革新的な技術を開発し、ツール化して産業界に広く展開することを進めています。

 設計分野では、従来あまり考慮できていなかったニーズの抽出、価値、感性の定量化といった領域と、個人に向けた最適な製品の実現に向けたCADや最適化、シミュレーションといったデジタルエンジニアリングの領域を、研究対象として進めました。このうちニーズ、価値、感性といった領域は、それ自体が企業の競争優位性をもたらす武器、すなわち競争領域であり、共通技術化し広く展開することが難しいことがわかったため、プログラム全体としては途中で中止し、テーマ毎に共同研究やコンソーシアムなどの形で企業への展開を進めることとしました。プログラムの後半は、デジタルエンジニアリング領域の研究開発を中心に進めています。

 生産・製造は日本の強い分野であり、さらにこれを強化することを目的として、従来の工法では作れない複雑で自由な形状の形成や多様な材料組成、従来にない高品質、低コスト化、新しい機能の発現を可能とする新技術、複合化技術を対象に研究開発を進めました。特にプログラム後半では、ユーザーの多様なニーズに対応できるよう設計の自由度を大きく向上可能な3D造形技術と表面処理などの機能性付加技術を中心に研究開発を進めています。

 ここで開発した技術やツール多くは、プログラム期間内に企業でのテストユースを実施し、フィードバックを受け完成度を高め、プログラム終了後には広く産業界に展開し、企業での付加価値の高い製品開発に貢献していきます。

地場企業や中堅中小企業に新たな気づきを

 また、わが国には、優れた材料・部品技術を持つ地場企業や中堅中小企業が数多くあるものの、分業化によって受注型のものづくりに特化している企業が少なくありません。日本全体の産業競争力強化には、地方の中堅・中小企業に、大学や公的機関の先端的な知見を加え、新しい手法や技法を定着させることが重要です。その実現には、SIPで開発した新たなツールや技術に触れたり活用したりできる環境を、地方の中堅中小企業に提供することが有効だと考えます。本プログラムでは、ツールや技術の活用の場として、産総研や地方の公設試にSIP成果であるツールや技術を設置し、SIP終了後も継続して活用できる仕組みも構築しています。

イノベーションスタイルの展開

 本プログラムでは、研究開発の推進方法の新たな仕組みとして「イノベーションスタイルの実証・実践」にも取り組んでいます。どんなイノベーションの実現にも、ユーザーの参加が欠かせません。そこで本プログラムでは、研究開発成果を実際のものづくりに適用し、成果を使用した企業や個人ユーザーの意見を得て新たな問題点を洗い出し、研究開発に迅速にフィードバックする仕組みとしてイノベーションスタイルを提唱し、各研究テーマで実践しています。「仮説」「試作」「テスト」「評価」「フィードバック」を繰り返し行うことで、開発のブラッシュアップだけでなく、当初気付かなかった高付加価値なニーズの発掘も期待できます。

 一例としては、基礎的な原理解明などに重点を置く「大学」、消費者や企業ユーザーとのコミュニケーションを重視する「企業」、地域社会を含めて広くユーザーに技術を展開する「公的研究開発機関」などが連携し技術の完成度向上や新たなニーズの掘り起こしをおこなうなど、さまざまなタイプのイノベーションスタイルがあります。本プログラムではこれらの事例を、「産学官連携による技術やツールの実用化、高付加価値製品開発の道しるべ」として公開し、広く展開していきます。

想定シナリオ以上の成果を目指して

 本プログラムには、「医療・福祉」「自動車を代表とする産業製品」「コンシューマー製品」「エネルギー」など幅広い分野にわたる先進的なテーマが採択されています。また、産業系から個人向け製品・サービスまで、幅広いユーザーを対象にした研究開発も多くそろっています。さらに、地域の特色ある中小企業が参画するテーマも数多くあります。その中には、私たちが想定していなかったような斬新なテーマもあって、今後の展開に大いに期待をよせています。

 こうした方法で、革新技術や新しいものづくりスタイルを確立し、5年後には当初シナリオの出口はもちろんのこと、そのものづくりスタイルを活かした新たなデライトな製品やサービスの実用化、普及に向けた取り組みにつなげていきます。

Profile
佐々木 直哉
1982年株式会社日立製作所入社、機械系基盤技術シミュレーションの普及・開発に従事、2014年より現職
日本機械学会フェロー、日本機械学会会長、日本計算工学会フェロー、日本トライポロジー学会会員、工学博士(2018/4現在)